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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2414号 判決 1950年3月25日

控訴人 被告人 白石才治 外六名

弁護人 横尾義男 外三名

検察官 稲葉厚関与

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

各被告人の共同弁護人横尾義男、同林隆行、同山下卯吉、同川島英晃の各控訴趣意は同人等共同作成名義の控訴趣意書と題する末尾添附の書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の通り判断する。

第一点(イ)論旨は原審が白石才治他六名の司法警察員に対する論旨引用の各供述調書並びに猪又吉郎の検察官に対する供述調書の証拠調を各原本でなくその謄本でしたのは違法であるというにある。よつて原審記録並びに右引用の各謄本を調査するに被告人並びに原審弁護人は検察官の右書類の証拠調請求に対し、その任意性について疑があるからこれを証拠とすることについて異議を述べたが該書類の証拠調が謄本によつて行われることについては何の異議も述べておらないからその点については被告人並びに弁護人は異議なかりしものと認めなければならぬ。勿論この種の証拠調は原本によつてこれを行う建前であることは所論の通りである。しかし原本の使用が滅失その他の事由により使用不能若くは困難な場合もある。またこの種供述書の記載事項中には時として当該事件に関連性許容性ない部分の含まれることもある。かかる場合には所論のように供述者の署名押印の存する当該書類原本が存在し、原本が証拠能力あり且つその謄本が原本を正確に写録したものであるときは、謄本又は抄本の使用を認めるのが相当である場合があるから、当事者に異議がない限り刑事訴訟法第三百二十一条、同第三百二十二条は常に必ずしも供述者の署名又は押印ある原本によらなければならぬとは解せられない。このことは同法第三百二十七条の規定からも窺われるのである。(最高昭和二十四年(れ)第三六八号同年九月一日判決参照)而して本件に於ては前述の通り被告人並びに弁護人に於て謄本による証拠調については異議がなかつたものであり且つ原本に供述者の署名押印があり又所論謄本は原本を正写したものと認められるから原判決には所論のような違法はない。論旨は理由ないものである。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一原審判決には左記の如く判決に影響を及したる訴訟手続上の法令違反がある。

(イ)原審手続に於ては検察官より書証として一、白石才治の司法警察員に対する第一、第二回供述調書及弁解録取書の各謄本、一、霜越友治、霜越富八、霜越重春、霜越栄次郎、樋口源一及桶口亮一の司法警察員に対する各供述調書謄本、一、猪又吉郎の検察官に対する供述調書謄本などの各謄本を提出して証拠調を為し原審判決も亦右各謄本の記載を証拠に供せられて居るが刑事訴訟法第三二一条、及第三二二条に依つて証拠とすることのできる書面は供述者の署名若しくは押印のあるもの、即ち供述調書の原本でなければならず又其の証拠調は当然原本について実施すべきものであつて唯だ刑訴法第三一〇条に依つて証拠調終了後必要があつて特に裁判所の許可があつたときは記録へは其の謄本の代用提出を認められて居るに過ぎない。従つて初めから供述者の署名若しくは押印のない謄本に付いて証拠調を請求実施し之を受理して判決に於ける証拠に供したることは訴訟法上証拠とできないものを罪証に供したる違法あること明である。

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